(本記事は弊社の音声コンテンツであるBEt Radioの内容を元に執筆しております)そもそも、問いのたて方がズレている「なぜ新規事業案は通らないのか」・・・この問い自体、実は少しズレています。通る企画と通らない企画を分けるのは、提案の中身の良し悪しだけではありません。多くの場合、意思決定者が「イメージできるかどうか」「肌感を持てるかどうか」が決定的な分岐点になっています。数字を積み上げ、ロジックを固めても、意思決定者が「自分には肌感が持てない領域の話だ」と感じた瞬間、承認のゴールが閉ざされてしまいます。さらに根本的な問題は、多くの企業で「どんな新規事業を作るのか」というコンセンサスそのものが存在しないまま、企画者だけが走らされているという構造にあります。事業喪失(損失)プロセスや意思決定基準、共通言語が事前に用意されていないと、企画は不完全な状態でスタートせざるを得ません。不完全なものは叩かれて当然です。この前提を経営層自身が自覚し、意思決定基準を自分たちの手で作っていくことが、本来はスタート地点になります。意思決定者が一枚噛んでいる企画は通るこれまで通ってきた新規事業に共通するのは、経営や意思決定者が何かしら一枚噛んで、一緒に提案を考えたものだということです。逆に、メンバーがゼロから立ち上げて提案したものは、なかなか通りません。うまくいくパターンには、ある型があります。まず意思決定者が「こんなことができたらいいな」という種をまく。企画者がその種を拾い、「行けそうだ」というところまで練り上げる。そして再び意思決定者に戻し、「どうですか」とすり合わせる。この往復のプロセスがあるかどうかが、企画の通りやすさを大きく左右します。意思決定の権限をどう分けるか意思決定者がシンプルにデザインされている場合、たとえば社長一人が決める、あるいは新規事業担当の役員が一人いて予算の範囲内で権限を持っている場合は、比較的スムーズに進みます。難しいのは、複数人が同じ企画を見てジャッジするケースです。新規事業は誰もが口を出したくなる領域であり、それぞれが異なる目線で意見を述べることで、企画がまとまらなくなることがあります。このとき有効なのは、「ここまでは決めていい」という権限を役割ごとに分けることです。誰が何を決められるのかを明確にし、口を出せる範囲を切り分ける。それだけで、チャレンジしながら前に進める状態を作ることができます。過去、企画担当者としてこの構造に向き合った経験もあります。今まで議論されてきたフィードバックやチェックポイントを100〜200個ほどExcelに整理し、「これをクリアすればオッケーにしてほしい」と提示したことがありました。しかし返ってきた反応は、「新規事業はケースバイケースだから、これを全部満たせばオッケーというものではない」というものでした。基準を作って企画を通せる流れを作ろうとする発想自体は間違っていなかったものの、それだけでは機能しなかったということです。通る企画に共通する「ファクト」の入れ方企画書の完成度を上げる前に、もっと費用対効果の高い打ち手があります。それは、顧客の生の声、つまりファクトを企画に入れることです。若者向けアパレルの新商品について、市場データと競合調査をまとめた企画書を意思決定者に渡す場面を想像してください。もう一方で、女子高生が「これ超可愛い、めっちゃ欲しい」と自然に会話しているのを意思決定者が偶然耳にする。どちらが「投資してみよう」という気持ちを動かすかは明らかです。かつてリクルートでは、新規事業の企画案を役員に上げる際、統計上一定のN数(数千件規模のアンケート)を取ることが条件になっていたという話があります。ある企画では、そのN数が統計上まったく足りていませんでした。本来なら通らないはずの企画でしたが、補足資料がやたらと長く、よく見ると担当役員の親族に個別にインタビューをしていたことがわかりました。役員たちはその生々しい記録を食い入るように読み、結果として企画は通ったといいます。ファクトは、量だけでなく「生々しさ」でも人を動かすということです。自分自身がN1として「僕がこれが欲しいから」と語ることも、企画の入り口として十分に機能します。第三者に実際に聞いてみて、具体的な声を持ってくることも同様です。事業企画を立てる人間にとって、最強の武器は顧客の声や実際の課題に基づいたファクトだといえます。企画を「こねこね」する前にやるべきこと新規事業は、市場に問わなければ、それがいいものかどうかは本来わかりません。にもかかわらず、多くの企画は机上で戦略やビジネスモデルを練り込むことに時間を費やしてしまいます。企画の段階でコアの体験を市場に問うてしまう方が、結果的に早く進みます。今の時代、AIも活用できるようになっており、プロトタイプを作るコストは下がっています。事業計画を完成させてから検証するのではなく、まず検証ステップを企画案そのものに組み込み、「このタイミングで、この規模の投資をください」という形で意思決定者に提示する方が、判断材料としても機能します。事業計画は、検証の後で作るくらいの順序でちょうどいいということです。「もう1つの柱を作れ」というテーマ設定が危険な理由新規事業がうまくいかなくなる原因として、出発点のテーマ設定そのものに問題があることも少なくありません。「今の事業を補完するような、もう1つの柱が欲しい」——このフレーズを聞いたことがある企画者は多いはずです。しかしこれは、デザイナーに「かっこいいものを作ってくれ」とだけ依頼するのと同じ構造です。何をもってかっこいいとするのか、誰に何を伝えたいのか、その指針がなければ、進む方向が定まりません。事業には本来、2つの王道があります。ひとつは「これはいい、もっと多くの人に届けたい」という、いいものが先にあってビジョンに従って走るパターン。もうひとつは、顧客の課題がすでに見えていて、その解決を目指すパターンです。どちらもない状態から新規事業をこねこねと作ろうとするから、企画は苦しくなります。柱になるような売上規模の数字だけを目標として与えられ、中身は自由に考えろと言われるようなテーマ設定は、基準として機能しません。迷子にならないためには、基準となるルールが必要です。予算を先に決めるか、実現したいことを先に決めるか。どちらかの軸を定めてから話さないと、議論は発散して終わってしまいます。数十億規模の事業を作りたいという基準だけでお金の話に終始すると、選択肢が絞られているように見えて、実際にはまったく絞れていない状態になります。ビジョンや実現したい世界観という軸があった方が、検討もしやすく、顧客理解も深まります。また、数十億という大きな数字を先に決めすぎることにも注意が必要です。事業がスケールするかどうかには、運やタイミング、偶然の巡り合わせといった、計画に組み込めない要素が関わってきます。ポテンシャルとして測っておくことは大切ですが、そこにどう到達するかを詰めすぎると、話が前に進まなくなります。「すでにあるじゃないか」は、諦める理由にはならない新規事業を検討するとき、「でも類似サービスはすでに存在する」という壁に突き当たる場面があります。しかしこれは、すぐに諦める理由にしてしまうともったいない可能性があります。あるスタートアップ経営者からランチの席でかけられた言葉があります。ハンドメイド作品のマーケットプレイスのようなサービスをやりたいが既に類似のものがあると悩みを相談したときに、「そのサービスが存在することで、今あなたの望んでいる世界になりましたか」と問われたのです。似たようなサービスがすでにあったとしても、自分が実現したい世界にまだなっていないのであれば、やればいいというアドバイスでした。上記の話を身近な外食で話をします。関東には揚げたこ焼きのチェーン店が多く、関西風のふわとろたこ焼きはあまり見当たりません。「たこ焼きはもうある」というのは事実ですが、自分が食べたいものが世の中にないなら、それはまだ解決されていない問いです。一方でラーメンは、地域を問わず多様なスタイルの店が存在し、「食べたいラーメンが近くにない」という状況はほぼ解消されています。同じ「すでにある」でも、「自分が実現したい世界になっているか」という問いで見ると、まったく違う景色が見えてきます。同じ「すでにある」でも、「自分が実現したい世界になっているか」という問いで見ると、全然違う景色が見えてきます。まとめ|企画者が今日からできること新規事業企画が通らない理由の多くは、「企画の質の問題」ではなく「構造の問題」と「順序の問題」にあります。企画者個人としてできることは、大きく3つあります。まず、顧客の声を企画に入れること。インタビューでも、簡単なアンケートでも、自分自身がN1として語れる体験でもいい。生々しいファクトは、どんなロジックよりも人を動かします。次に、プロトタイプを作って反応を見ること。今の時代、AI活用でコストは劇的に下がっています。企画を完成させる前に、コアの体験だけでも市場に問うてしまう。その反応を持って企画案に戻ると、説得力が変わります。そして、出発点のテーマ設定を問い直すこと。「なぜこの事業をやるのか」「誰のどんな状態を変えたいのか」という問いに自分なりに答えられるか。その答えが企画の軸になり、無数の意思決定場面での判断基準にもなります。「通る企画」と「通らない企画」の差は、資料の完成度ではありません。ファクトがあるか、市場に問うているか、なぜやるかが乗っているか——その3点に尽きます。なぜやるかを明確化するには、企業のコンテキストも踏まえてデザインしていく必要があります。そういった方針整理、そして新商品・事業企画を具現化していくお手伝いをBEtでは行っております。ぜひお気軽にご連絡ください。